103万、106万、130万、201万の壁、という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
これらの数字とその意味をまとめて説明されると、かえって分かりづらいと思います。
どの壁も、それを超えると負担増になるのですが、中でも影響が大きいのが130万の壁です。
そこで、130万の壁について分かりやすく単純化して説明します。
一人ひとり、会社または国の保険に加入することが必要
健康保険証を持っているということは、保険に加入しているということです。
会社勤めの方であれば企業を通じて保険(被用者保険)に入っています。
自営業の方は市役所などを通じて保険(国民健康保険)に入っています。
そして、会社を退職した人も死ぬまで保険に入ることになります(後期高齢者保険)。
このように、生まれてから死ぬまで、一人ひとりが必ずどこかの保険に加入する制度が日本の保険制度です。
保険に加入する、ということはその分の保険料負担をすることになります。
例えば、会社勤めの方は毎月の給与から保険料を差し引かれます。自営業の方は納付書や口座振替で保険料を支払います。
一生涯保険に加入する=一生涯保険料を負担する、ということです。
とはいえ、保険料を負担するだけの収入がない人はどうすればいいのでしょうか?
成人して働いていない人もいれば、生徒・学生で働けない年齢の人もいます。
そのため、これら自分で保険料を負担することができない人を、世帯主が扶養する、という考え方が出てきます。
ちなみに、扶養という考え方があるのは会社勤めの方(被用者保険)だけです。
自営業の人(国民健康保険)が配偶者を扶養する、という考え方は、社会保険ではありません。
扶養に入れる基準は年収130万未満
ここで登場するのが130万の壁です。
例えば、妻(または夫)の年収130万未満であれば、その配偶者の扶養に入れるということです。
パート勤務で年収130万未満に抑えるというのは、扶養に入り続けるためです。
他にも、成人した子が定職に付けないため、親の扶養に入れることもできます。
もちろん、子の年収130万未満が条件です。
また、高齢の親を扶養に入れることもできます。この場合の収入は主に年金になりますので、年金収入が130万未満であればOKです。
収入の定義や、収入とは実績ベースなのか見込みベースなのか、という細かな注意点がたくさんありますが、ここでは触れません。
では、なぜそんなに扶養に入りたい(外れたくない)のでしょうか?
それは、単純に負担が増えるだけだからです。
扶養から外れると負担増で給付は変わらないから丸損
同じ会社に勤める3人の男性社員がいます。
・Aさんはパート勤務の妻と小さな子供が一人の3人家族。妻と子供を扶養に入れています。
・Bさんは独身。誰も扶養していません。
・Cさんは結婚していますが子供はいません。妻もCさんと同じくらい収入があるため扶養に入っていません。
この中で、保険料を一番多く納めているのは誰でしょうか?
Aさんは自分を入れて3人保険に入っていますので、Bさん・Cさんに比べて多く保険料を払うのが筋だ、と思う人もいるでしょう。
正解は、年収が一番多い人です。
保険料を決める基準は年収であって、加入者数ではありません。
そのため、扶養している人が何人しても、年収が高い人の方が保険料を多く払うことになります。
言い換えると、扶養に入れても入れなくても、保険料は変わらないということです。
もし扶養に入らないとしたら、どうなるでしょう?
Aさんの奥さんがどうしても夫の扶養に入りたくない、または入れない、となると、国民健康保険に入ることになります。
冒頭説明した通り、一生涯必ずどこかの保険に入らなければならないからです。
そして、国民健康保険に入ればその分の負担が発生します。
奥さんの視点でみれば、夫の扶養に入ればタダ、扶養から外れると国民健康保険の負担をしなければならないということです。
夫の扶養(被用者保険)でも国民健康保険でも、保険証を持って病院へ行けば自己負担は少なくて済みますので、受けられる給付に差はありません。
これでは被用者保険の扶養から外れると丸損ということになってしまいます。
だから、損したくないために扶養から外れたくない、なんとしてでも扶養に入り続けるのです。
そして、扶養の話は保険だけではなく、年金にもつながっています。
3号被保険者という不思議な制度
年金は20歳から保険料を納める義務が発生します。
大学生のうちから支払い義務が発生するため、親に代わりに払ってもらったり、特例を使って猶予してもらう手続きをした人もいるのではないでしょうか。
年金を受け取るのは65歳以降です。
年金も保険と同じように、必ずどこかの年金に加入(支払)をしなければなりません。
大学生(国民年金)が就職して会社勤めになれば、会社の年金(厚生年金)に加入します。
そして、ここでも被用者保険と同じく厚生年金にも扶養という考え方が登場します。
年収130万未満の配偶者を扶養に入れることができるのです。扶養に入った人を3号被保険者といいます。
(保険と異なり、子や親はダメです。配偶者限定です)
扶養に入れても入れなくても、年金(厚生年金)の保険料負担は変わりません。年収で保険料が決まるためです。
そして、扶養に入った人も入らなかった人も、給付は同じです。
給付は同じ、というのは国民年金が同じ額もらえるということ。
国民年金は40年間保険料を払い続け、その結果、65歳から毎年777,800円もらえます。
扶養に入って40年間過ごすことで、満額の年金がもらえます。
3号被保険者になる(扶養に入る)と、保険料の負担なしで年金がもらえるということです。
もし扶養から外れるとどうなるでしょう?
3号被保険者ではなくなりますので、自分で年金保険料を支払わなくてはなりません(給付は増えないのに)。
年金保険料は定額で16,590円、月額です。
扶養から外れると年間20万の年金保険料の支払いが必要となる。
しかし、65歳以降からもらえる年金が増えるわけでもない、という不思議な制度になっています。
年収130万未満を死守することは正解なのか?
保険・年金ともに扶養の基準は年収130万未満です。
特に配偶者は年金制度の3号被保険者から外れることによる負担は大きいです。
この制度のため、なんとしてでもパート勤務の収入を130万未満に抑える、ということが今までずっと行われてきて、それは正しい行動だったといえます。
扶養から外れて年金を納めても、その分割増しで年金もらえないんだから丸損でしょ、ということです。
それでも、共働き世帯が増加してきたことにより不公平感が増したからなのか、年金財政が悪化しているからなのか、ここ数年で大きな変化が生じてきました。
それが、健康保険・厚生年金保険の適用の拡大です。
(この話題は複雑なのでここでは触れません。)
年収130万の壁と健康保険・厚生年金保険の適用の拡大と合わせて理解することで、パート勤務の方は一体どうすればいいのか?という答えに辿り着けます。
それについては改めて解説したいと思います。