中古マンションの購入は広告掲載している不動産会社にそのまま依頼するのがいいの?
物件探しと言えばインターネットです。 今時、街を歩いて不動産屋さんの店頭に貼りだしてある広告で探そうと思う人はいないでしょう。 ネットの世界では様々な情報が入り乱れていることもあり、お目当ての物件が見つかっても、そのまま問い合わせをしてもいいのか不安に感じる人も少なくありません。 聞いたことがない不動産会社だけど、個人情報を渡しても平気なのか… しつこく電話営業されそうで怖い… それなら、まずは知り合いの不動産会社の人に相談してみよう。(知り合いがいない場合)CMなどで知名度のある大手不動産会社に相談した方が安心できる。 不動産を購入するうえで、安心して取引を進められるということを優先して考える人もいれば、欲しい物件を少しでも安く買うことを優先して考える人もいます。 特に後者のように考える人から冒頭のような質問を受けることが多いです。 本稿では不動産取引の仕組みについて少し触れながら、疑問に答えてみたいと思います。
広告媒体による違い ~運営主体は不動産会社?~
物件が掲載されているネット広告は大きく分けると以下の2つの種類に分けられます。 ・プラットフォーム型サイト ・自社サイト型 プラットフォーム型サイトとはSUUMOやホームズのことです。 私たちが物件探しをする際、最もよく目にするものではないでしょうか。 プラットフォーム型サイトを運営しているのは不動産会社ではありません。 そのため、運営会社自身が物件を掲載したり、販売しているわけではなく、実際に掲載しているのは運営会社とは全く別の会社(不動産会社)になります。 運営会社はプラットフォームを提供することで、そこに出店を希望する不動産会社から広告料を得ています。 不動産会社としては、購入希望者の多くが訪れるサイトに物件を掲載することができれば成約の可能性が上がるため、広告料を払ってでも掲載したいと思いますよね。 このように、プラットフォーム型サイトというのは多くの不動産会社が販売のため広告料を支払って物件広告を掲載してる場ということです。 一方、自社サイト型とは不動産会社が自ら運営するホームページに広告掲載すること。 大手仲介会社のホームページには必ず物件検索のページがあり、自社で取り扱っている物件をホームページに公開して販売しています。
大手仲介会社であればネット検索をしたときに上位表示されることもありますが、小さな不動産会社の場合は自社ホームページが上位検索表示されることはありません。 そうなると、自社ホームページにいくら掲載しても誰の目にも触れずいつまで経っても売れません。 それであれば多くの人が訪れる超一等地(SUUMOやホームズ)に出店して商品(物件)を見てもらおう、ということになります。 しかも、SUUMOやホームズはネット上では大手仲介会社のホームページよりも好立地にあります。 それもあって、中小のみならず大手仲介会社もプラットフォーム型サイトに物件を掲載しています。 このように、プラットフォーム型サイトはネット上ではとても影響力が強いため多くの不動産会社が出店している状態です。 多くの不動産会社が出店していることもあり、お目当ての物件情報をクリックすると聞いたこともない不動産会社が取扱会社になっていることも珍しくありません。 そのため、「広告掲載している不動産会社にそのまま依頼するのがいいの?」という疑問が出てきます。 (自社サイト型で見つけた物件ではそもそもこのような疑問は出てきません。) その疑問に答えるためには、取扱会社の種別、違いについての理解が必要です。
売主と仲介(媒介)の違い ~売主直販は仲介手数料がかからない?~
プラットフォーム型サイトに広告掲載できるのは不動産会社だけです。 そのため、大手・中小という不動産会社による違いがあっても、他に違いはないと思っていませんか? プラットフォーム型サイトに限らず、不動産広告は掲載ルールが決められています。 その中の一つが取引態様です。 主に目にするのが2つで、仲介(媒介)と売主があります。 仲介(媒介)とは、不動産会社が他人から売却の依頼を受けて販売している形態です。 簡単な図で表すと下記のような形態になります。
売主から依頼を受けた不動産会社がプラットフォーム型サイトに掲載している形です。 一方、取引態様が「売主」というのは、その名の通り自社が売主として物件を販売しています。
プラットフォーム型サイトには不動産会社しか広告掲載できませんので、取引態様が売主ということは不動産会社が自社で所有している物件です。 この違いはとても大きく、あなたが買主の立場としてネット広告から問い合わせをしたらどうなるでしょうか。 仲介の場合、ネット広告を通じて仲介の不動産会社に問い合わせることになります。 その後、物件の内覧、住宅ローンの事前審査などを経て、無事に契約となった場合は下記のような関係になります。
登場人物は買主と売主、その間をつないでくれた不動産会社の3者です。 不動産会社の役割は取引態様の通り仲介ということでそれぞれの間を取り持ち、対価として仲介手数料をもらい受けます。 では、取引態様が売主の場合はどうなるのでしょうか? ネット広告を通じて問い合わせをして、物件を内覧して、住宅ローンの事前審査などを経るのは同じです。 無事に契約となった場合の関係図は下記の通り。
先程の仲介と大きな違いは、買主と売主以外の人物が登場しないことです。 そのため、仲介手数料が発生しません。 仲介手数料は物件価格のおよそ3%(税別)です。 4,000万の物件であれば120万(税別)かかります。 冒頭の疑問である「中古マンションの購入は広告掲載している不動産会社にそのまま依頼するのがいいの?」についての1つの答えは、取引態様が売主であれば、そのまま問い合わせをするのが良い、と言えます。 その理由は、仲介手数料がかからないという経済的なメリットがあるからです。 では、取引態様が仲介の場合、そのまま広告掲載している不動産会社に問い合わせるのがいいのでしょうか? その疑問に答えるためには仲介会社の立ち位置について理解が必要です。
仲介会社の立ち位置 ~両手と片手~
取引態様が仲介の物件をネット広告を通じて問い合わせをして、契約をした場合の関係図を再度ご覧ください。
不動産会社の立場で見ると、契約に至るまでは以下のような工程を経ています。 1.売主と不動産会社の間で売却を依頼する媒介契約を結ぶ 2.媒介契約に基づいて販売のためネット広告を行う 3.ネット広告を通じて買主から問い合わせ受ける 4.内覧、住宅ローンの事前審査を経て、買主と不動産会社の間で媒介契約を結ぶ 5.売主と買主の間で売買契約を結ぶ 1.と4.にある通り、売主、買主は不動産会社と媒介契約を結ぶことになります。 仲介として間に入る不動産会社が売主、買主それぞれから媒介契約を結び売買契約に至ることを両手取引と呼んでいます。 媒介契約ごとに仲介手数料が発生するため、両手取引の場合は不動産会社は売主、買主それぞれから仲介手数料を得ることができます。 では、もし買主であるあなたがネット広告を見て、掲載してる不動産会社以外の不動産会社に問い合わせをすると、どんな流れで契約に向けて進むことになるのでしょうか。 今回あなたが依頼するのは知人が経営する不動産会社「スマアトFP」という想定で具体的に見ていきましょう。 あなたから問い合わせをもらったスマアトFPは、まずは掲載元の不動産会社に電話をします。
スマアトFP
御社が掲載している横浜マンション3,990万を、当社のお客様に紹介してもいいですか?
ネット広告されている物件は掲載元の不動産会社が窓口になって販売しています。 そのため、自社のお客様に紹介しても問題ないかどうか、掲載元の不動産会社に確認しなければなりません。 (稀に紹介不可という物件もあります。紹介不可と言われてしまったらスマアトFPでは扱えない物件のため、あなた自身で掲載元の不動産会社に問い合わせをしてもらうよう伝えます。) 今回は紹介できるとのことでしたので、次のステップは物件の内覧です。 あなたに内覧希望日を確認して、いくつか候補日をもらいました。 再度、スマアトFPは再度掲載元の不動産会社に電話をします。
スマアトFP
横浜マンション3,990万の内覧をお願いしたいので、売主様との日程調整をお願いします。買主様は今週の土日、10:00-12:00を希望してます。
売主が居住中の場合、掲載元の不動産会社は売主と日程調整を行うため、内覧日が決まるまで少し時間がかかることがあります。 ようやく内覧日が決まり、当日はあなたとスマアトFP、掲載元の不動産会社の営業担当の3組で横浜マンションを見学します。 掲載元の不動産会社はスマアトFPのような他の不動産会社の案内や、自社に問い合わせがあったお客様の案内など、複数回案内をしているためマンションについて良く知っています。 一方、スマアトFPはあなたからの依頼があったので横浜マンションの案内に同行していますが、今まで取り扱ったことがないマンションのため現地を見るのは初めてです。 事前に資料は読み込んできましたが、正直細かなところは良くわかっていません。 でも、掲載元の不動産会社が一緒に来てくれますので、あなたから細かな質問があっても問題ありません。 分からないことは掲載元の不動産会社が答えてくれます。 その場で答えられないことや売主に確認が必要なことは、掲載元の不動産会社が後日確認します。 内覧を終えて、あなたはとても物件が気に入ったため申し込みをすることにしました。 スマアトFPの事務所で申し込み手続きを行います。 売買価格、手付金の額、契約日、引渡し日など、諸条件をすり合わせ、購入申込書を記入します。 少しでも安く買いたいと思ったあなたは、3,990万の販売価格に対して、3,900万と90万の値引きが希望です。 スマアトFPとしても、知人であるあなたの希望を叶えたいという強い思いがあるため、申込は3,900万で引き受けます。その旨を購入申込書に記入します。 申込を引き受けましたので、購入申込書を掲載元の不動産会社に送り、合わせて電話で報告します。
スマアトFP
本日横浜マンションを内覧したお客様より申し込みをお預かりました。価格について少し交渉が入っており、90万の値引きをお願いしたいです。売主様との調整をお願いします。
価格は売主・買主の合意で決まります。そのため、掲載元の不動産会社は売主にあなたの希望価格を伝えて返事を待ちます。 数日後、売主から了解がもらえた、と掲載元の不動産会社から電話が入りました。 念願かなって希望価格で気に入ったマンションを購入することができることになりました。 さて、このようにスマアトFPと掲載元の不動産会社が間に入る場合は、どのような関係図になるのでしょうか。
買主、売主にそれぞれ不動産会社がついて、不動産会社同士で業務を調整することになります。 スマアトFPは買主であるあなたとの媒介契約に基づいて業務を行うことになります。 これを客付(きゃくづけ)と言います。 一方、掲載元の不動産会社は売主との媒介契約に基づいて業務を行っています。 こちらを物元(ぶつもと)と言います。 媒介契約ごとに仲介手数料が発生しますので、客付は買主から仲介手数料をもらい、物元は売主から仲介手数料をもらいます。 不動産会社からみて片方の当事者からしか仲介手数料をもらえないため、片手取引と呼ばれています。 両手仲介でも片手仲介でも、不動産会社が間に入ること・売買契約は売主、買主間で行うことは変わりません。 それでは、両手仲介と片手仲介では、あなた(買主)にとって何か違いはあるのでしょうか? 違いが無いのであれば、冒頭の疑問「中古マンションの購入は広告掲載している不動産会社にそのまま依頼するのがいいの?」に対する回答は、「どちらでもいい。なぜなら、違いはないから」ということになります。 しかし、そうはなりません。 買主にとって大きな違いがあるからです。
仲介会社の付加価値とは ~仲介手数料に見合った仕事とは~
先程説明したスマアトFPに依頼してマンションを購入した一連の流れを思い返してみてください。 スマアトFPが行った業務は全て取次ぎ(連絡)業務であり、掲載元の不動産会社に直接依頼をしても同じ結果になるものばかりです。 現地内見の日程調整:売主の日程を確認するのは掲載元の不動産会社。掲載元の不動産会社が直接行った方がスムーズです 案内・質問に対する回答:細かな質問に答えてくれるのは掲載元の不動産会社。掲載元の不動産会社の方が詳しいため、直接聞いた方がスムーズです 申込金額(値引き):価格を決めるのは売主で、売主と交渉するのは掲載元の不動産会社。 スマアトFPが介在することによってあなた(買主)にメリットがあるようには思えません。 一方、掲載元の不動産会社(物元)目線で見ると、スマアトFPのお客様も自社のお客様も、物元が行う業務量は同じようなものです。 もし、同時に2組のお客様が申し込みをしたらどうなるでしょうか。
1組はプラットフォーム型サイトから自社に直接問い合わせをもらったお客様(図の左側)。 もう1組はスマアトFP(客付)のお客様(図の右側)。 どちらのお客様と契約をしても物元の業務量はほぼ同じ。 しかし、得られる仲介手数料は異なります。両手仲介か片手仲介の違いです。 物元として、どちらを優先したいと思いますか? 個人的な気持ちは置いておいて、収益を上げる会社の運営として、どちらを優先すべきと考えるのが普通でしょうか? このように、不動産会社として提供する仲介サービスに付加価値がない場合、どうせ同じ仲介手数料を支払うなら優先的に扱ってもらえる物元に依頼する方が買主にメリットがあります。 物元有利というのは業界内では常識となっていることもあり、各社付加価値サービスを提供しています。 例えば ・建物の無料検査・保証 ・提携金融機関による住宅ローンの提供 ・住み替えに伴うつなぎ融資の提供 ・ファイナンシャルプランナーによる無料FP相談 ・引っ越し、家具の提携会社による割引 など、様々な付加価値サービスを提供しております。 しかし、1社が独自のサービスを展開すると他社も同じサービスを導入するため、結局どこに依頼しても同じようなサービスが受けられことになり差別化ができていません。 また、どの付加価値サービスも買主自身が不動産会社を通さずに利用できるサービスばかりです。 建物の検査・保証は10-20万で検査会社に依頼できます。 ファイナンシャルプランナーによる相談も数万です。 それらを無料で提供することを付加価値サービスとは言えそうにありません。 提携金融機関による住宅ローンについても、不動産会社を通さずに買主自身で行う方が金利引き下げ幅が大きい金融機関もありますので、特別なメリットとは言えません。 このように、付加価値サービスが弱いためどこの不動産会社に依頼しても同じ、という状況ですが、革新的なサービスが生まれたからと言って物元有利が変わることは無い、というのが私の考えです。 買主の一番の希望・目的は「この物件が欲しい!」ということです。 物元が売主の窓口となって全てを差配している構図が変わらない限り、やはり物元の不動産会社に依頼することです。
まとめ
冒頭の疑問に対する回答は「そのまま依頼するのがいい」ということです。 どうせ同じ仲介手数料を支払うなら、仲介サービスに大差がないため優先的に扱ってくれる物元を通じて進める方がメリットがある、という理由です。 また、一部の不動産会社では仲介手数料の値引きを行っています。 しかし、例え仲介手数料が半額になろうとも、お目当ての物件が買えなければ話になりません。 4,000万の物件の仲介手数料は120万。半額の60万になっても、どうしても欲しいと思える物件なら60万をケチって買い逃す方が悔しくないですか? 仲介手数料の値引きがあろうとも、私の考える結論は変わらないです。 それよりも、もっと金利の低い金融機関を探す、諸費用を見直す、普段の支出を見直し、預貯金の運用を考える等、視点を変えるとお金を節約する様々な方法があります。 住宅購入だけにフォーカスして考えることなく、ライフプラン全体を通じてお金を考えるお手伝いをしています。 気になる方はぜひお問い合わせください。