以前、コラムで年収130万の壁について解説しました。
ポイントは以下の通りです。
- 年収130万を超えると扶養から外れてしまうため、国民年金、国民健康保険に加入しなければならない。
- 国民年金、国民健康保険の保険料負担が増える。
- 国民年金、国民健康保険に入っても、扶養の時と比べて給付が増えるわけではない。
- つまり、扶養から外れると損。
年収130万は社会保険の扶養の境目です。
それとは別に、社会保険の加入要件として年収106万を境目にしたものができたのです。
そこで前回の続きとして、社会保険の年収の壁について解説します。
被用者保険の適用拡大の問題
106万の壁と130万の壁は別物です。
130万は扶養に入れるかどうかの問題で、基本的に配偶者が正社員(被用者保険)で、本人(パート勤務)は扶養に入れなければ国民健康保険に入ります。
106万の壁とは、本人が被用者保険に加入するかどうかの問題です。
被用者保険とは、会社に雇用されて働く場合に加入する保険です。
そのため、自営業・個人事業の場合は対象外です。
(自営業・個人事業の方は年収がいくらかにかかわらず国民健康保険です。)
今までは、パート勤務などの収入が130万を超えてしまうと配偶者の扶養から外れてしまうことが問題でした。
これからは、パート勤務の収入が106万を超えれてしまうと自分の勤務先の被用者保険(厚生年金・健康保険)に加入しなければならないという問題です。
自分の勤務先の被用者保険に入るということは、配偶者の扶養から外れることになります。
実質的には、扶養に入れるかどうかの年収基準が130万から106万に引き下げられたことになります。
拡大対象となる範囲は?
年収106万を超えると誰もが被用者保険に加入しなければならないわけではありません。
まず、勤め先の要件があります。
- 被保険者の総数が常時100人超であること。
今までは被保険者500人超でしたが、令和4年10月に引き下げられました。
これにより中規模の小売店舗などに努めるパート勤務者も被用者保険に加入しなければならなくなりました。
全国規模の小売店舗ではなくても、その地域では名の通った小売店舗にパート勤務している人は対象になるといえます。
ちなみに、令和6年10月からは50人超とさらに引き下げられます。もっと多くのパート勤務者が被用者保険にする流れです。
そして、加入する人の要件は下記の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2か月以上見込まれること
- 賃金の月額が88,000円以上であること
- 学生でないこと
以上4つすべてに該当する場合です。
賃金月額が88,000円ということは年収だと1,056,000円、ここから年収106万の壁といわれています。
パート勤務で年収106万以上の人はパート勤務先の保険(厚生年金・健康保険)に加入することになったのです。
被用者保険への加入は損なのか?
130万の壁と大きく異なるのは、年収が106万を超えたことにより被用者保険に加入することは給付が増えることです。
保険・年金ともに負担も増えますが、給付も増えます。
そのため、扶養から外れたことにより丸損する年収130万の壁とは違うということがポイントです。
厚生労働省も単なる負担増ではないこと一生懸命アピールしてます。
ご興味ある方は特設サイトを確認してみてください。
扶養から外れて被用者保険に加入すると負担はどのくらい増えるのか?
106万の壁を考えるとき、2つのケースに分けて考えるといいでしょう。
1つ目のケースは、扶養に入っていないけど年収130万未満の人です(自営業の配偶者などが考えられます。)。
そもそも扶養に入っているわけではありませんので、現在すでに国民健康保険・国民年金の負担をしています。
それが勤務先の被用者保険に加入すると、国民年金が厚生年金に、国民健康保険が健康保険に変わります。
収入に関わらず定額で負担していた保険料は、今後収入に応じた負担に変わります。
一方で、厚生年金・健康保険の保険料の半分は会社が負担してくれます。
年収130万の場合、国民健康保険・国民年金の負担はおよそ22,500円/月です。
厚生年金・健康保険に加入すると、およそ16,000円/月となり、自己負担は減ります!
(会社負担を含めると32,000円/月なので負担増です)
厚生年金は納めた保険料に応じて年金給付がありますので、会社負担も含めれば負担増ですが、給付増ということなので納得できます。
2つ目のケース、扶養の範囲でパート勤務をしている人です。
配偶者であれば国民年金の負担もないため、国民年金・国民健康保険は0円です。
それが、年収106万を超えたことによりパート勤務先の厚生年金・健康保険に加入することになれば、新たな保険料負担が生じます。
年収106万の厚生年金・健康保険の保険料は約12,500円/月です。
(会社負担を含めると25,000円/月)
1つ目のケースと同じく、厚生年金に加入するため納めた保険料に応じて将来の年金が増えます。
仮に、10年間年収106万としてパート勤務をすると、将来の年金はプラス54,100円/年です。
将来の給付が増えると言っても、年間15万の負担増となるなら年収106万未満に年収を抑えてしまおうとする人も少なくないのではないでしょうか?
単純に計算すると、10年間保険料(厚生年金・健康保険)を納めると150万の負担になります。
年金は終身年金なので長生きすればたくさんもらえます。
年金は年額54,100円増えますので、約28年以上もらえれば元が取れます(負担の150万より多くもらえます)。
これでは年収106万から130万の間の人は厚生年金・健康保険に加入しても損してしまうと考えてもおかしくないでしょう。
このように考えると、給付が増えるといっても負担増に比べてとても魅力的な給付増とはいえません。
扶養の範囲を狭めることを目的とした改定といえるでしょう。
年金・保険財政が厳しいことから、今後もさらなる負担増の制度改定を想定したファイナンシャルプランニングが必要だと言えます。
なお、国民健康保険から健康保険に切り替わることで、傷病手当金・出産手当金が受けれられますがここでは詳しく触れません。
また、上記試算は厚生年金の保険料だけではなく健康保険の保険料も含めて計算しています。
本来であれば厚生年金の保険料だけを使って負担と給付を比較するべきですが、厚生年金と健康保険はセットで加入しなければなりません。
そのため総負担で考える方が現実的です。
ちなみに、厚生労働省の資料は厚生年金のみで比較しています。