中古住宅の売買では、一度に全額のお金を支払い、物件の引き渡しを受けることもできます。
契約・決済(引き渡し)を同日に行うことから、契約後に気が変わって契約解除するということはありません。
一方、一般的に不動産を購入する場合、まずは契約を結び、その証として買主から売主に手付金を支払います。
その後、買主は住宅ローンの手続きを進めて、その融資金で残代金を支払うこととなります。
この場合、契約締結(手付金支払い)から、残代金の支払いまでは1~2か月かかるため、その間に売主または買主の気持ちが変わり契約解除となることもあります。
そこで本稿では、個人的な事情で契約解除できるのかどうか、ペナルティとしてお金を支払うのかなど、契約解除について詳しく説明します。
理由を問わず当事者は契約を解除できる権利がある。手付解除について
契約締結時に手付金の支払いをすることが一般的です。そして、売買契約書の中では、手付金を解約手付として扱うことが決められています。
解約手付とは、手付金を放棄(または倍返し)で契約を解除することができる手付のことです。
売主は、買主に受領済の手付金の倍額を現実に提供して、又買主は、売主に支払済の手付金を放棄して、それぞれこの契約を解除することができる。
このような形で契約書に記載されていることが多いです。
もし手付金として500万円支払って契約をした場合、買主は500万を放棄することで契約解除できます。
売主は、契約時にもらった500万円を返して、さらに自分で500万を上乗せする、つまり1,000万を買主に支払うことで契約を解除できます。
これが手付放棄・手付倍返しの契約解除です。
ペナルティは手付金相当額ということです。
また、手付解約は理由を問いません。
どのような理由であれ、ペナルティを支払うことで契約を解除できます。
なお、手付解除できる期間を制限することが一般的で、契約書の中で「令和5年●月●日を経過したときは解除できない」という形で記載されます。
期限は当事者の合意で自由に決められますが、契約日から1か月後の日にちとすることが多いようです。
手付金の金額は当事者の合意で決められますが、あまり少額(10万)だと手付解除しやすくなり契約が不安定となります。
それもあって、手付金の金額は売買価格の5-10%程度を目安に決めます。
天災地変等による不可抗力が起きた場合の契約解除。危険負担ついて
契約後、大地震が起きて建物が壊れてしまった場合でも買主は当初約束した通りの売買代金を支払わなくてはならないのでしょうか?
大地震などの自然災害は当事者の責任ではありません。
その責任を売主・買主のどちらが負うのかが問題となります。
これも売買契約書であらかじめ決めておきます。
天災地変その他売主又は買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって、本物件が滅失し売主がこれを引渡すことができなくなったときは、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、売主又は買主はこの契約を解除することができる。
前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
つまり、買主は壊れたものを買う必要はなく、残代金を支払わず契約を解除できるということです。
では、契約を解除した場合にペナルティは発生するのでしょうか?
後段に記載されている通り、手付金は返還されるとありますので、ペナルティは発生しません。
天災地変など、当事者の責任ではない理由による解約になるためノーペナルティで解約となることは納得できると思います。
なお、天災地変でも建物が軽微な損壊を受けただけで、修繕できるのであれば売主は修繕して買主に引き渡す、という条項が付いている場合もあります。
相手方が約束を守らない、契約違反による解除。違約金について
不動産売買契約における約束事(義務:やるべきこと)を単純にいえば
- 売主の義務:物件を引き渡す。売主が住んでいるなら引っ越しをして空き家にすること。
- 買主の義務:お金を支払う
ということです。
相手方が約束を守らないとは、買主が約束の期日になったのにお金を払ってくれないことや、売主が約束の期日になっても引っ越しをして出て行ってくれない、ということです。
売主又は買主は、相手方がこの契約に定める債務を履行しないとき、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告したうえ、この契約を解除することができる。
前項の契約解除がなされた場合、売主又は買主は、相手方に違約金を請求することができる。
例えば、令和5年2月1日までに物件の引き渡し、残代金の支払いをすると契約書で決めていたとします。
当事者間で2月1日にお金の授受を行うことを決めたため、売主は引っ越しを済ませて当日を迎えました。
でも、買主はお金の準備ができておらず、もう少し待って欲しいと言っています。
約束では2月1日にお金を支払ってもらうことになっています。
そこで、相当の期間として、2週間後の2月15日までにお金を支払うよう買主に伝えます。
それでもお金の支払いが受けられない場合、売主は契約を解除して、違約金を請求することもできます。
違約金の額はあらかじめ契約書で決めておきます。売買代金の10-20%とすることが多いです。
売主は売買代金の一部を手付金として受領していますので、(違約金-手付金=請求できる違約金)となります。
もし売主が約束違反をして、買主が契約解除をした場合、すでに支払っている手付金を返してもらい、さらに違約金を請求することができます。
ペナルティは違約金相当額となり、手付金<違約金、として金額に差を付けることが多いです。
住宅ローンが否決されてしまった時の契約解除。ローン特約による解除について
住宅ローンを利用して購入する場合、売買契約締結後に金融機関に住宅ローン本申し込みを行うことになります。
売買契約締結前、住宅ローン事前審査を行い承認が得られていても、本審査の結果で否決されてしまうこともあります。
手付金を自己資金で準備することはできても、住宅ローンが否決されてしまっては残代金が支払えません。
買主は売主に対して期日までに残代金を支払うことを約束していますので、このままではお金が支払えず、契約違反による解除・違約金を請求されてしまいます。
そのような事態にならないため、住宅ローンが否決されたときに限って、買主はペナルティなしで契約を解除することができます。
買主は、この契約の締結後すみやかに、●●銀行への融資の申込手続きをしなければならない。
2 ●●銀行への融資未承認の場合の契約解除期限までに前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に同契約解除期限が経過した場合には、この契約は自動的に解除となる。
3 前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
4 買主が第1項の融資の申込手続きを行わず、又は故意に融資の承認を妨げた場合は、第2項の規定は適用されないものとする。
あらかじめ指定した金融機関で申し込んだ住宅ローンが否決、または減額となってしまった場合、買主は契約を解除することができます。
契約解除となった場合には、売主は手付金を返還しなければなりません。
買主はノーペナルティで契約解除できるということです。
この特約は買主が住宅ローンを利用して購入する場合には必ず契約書に記載されます。
買主の立場で考えると、「住宅ローンが否決されても支払った手付金が返ってくるなら安心だ」と思って売買契約を結ぶことになりますが、いくつか注意点があります。
指定された金融機関での融資が否決された場合のみ
「あらかじめ指定した金融機関」での住宅ローンが否決された場合のみ、契約解除ができます。
一般的には、売買契約締結前に金融機関に住宅ローンの事前審査を出します。
事前審査の承認が得られてから売買契約を行いますので、ここでは事前審査の承認が得られた金融機関を「あらかじめ指定した金融機関」として記載されます。
「とりあえず事前審査をかけてみましょう」と不動産会社に言われて、本当はもっと条件の良い金融機関で進めたかったけど後で自分で申し込めばいいかな、という方もいらっしゃいます。
その後、売買契約を締結して、自分で探したより条件の良い金融機関で本申し込みを行うことにしました。
しかし、残念なことに否決されてしまいました。
自分で探した金融機関で否決されてしまっても、契約解除はできません。
あらかじめ指定した金融機関ではないからです。
なお、「あらかじめ指定した金融機関」を使わなければならない、という意味ではありません。
自分で探した金融機関で住宅ローンの本審査が通過すれば、そのまま進めても問題ありません。
あくまで、契約解除することができるのは、「あらかじめ指定した金融機関」で承認が得られない場合に限定されているということです。
金利を条件にすることはできない
契約書記載の文言の通り、融資金額の全額または一部が否決されてしまったときに契約解除することができます。
一方、金利については取り決めがありません。
最優遇金利として変動金利0.375%を予定していたけど、本審査の結果、変動金利0.575%で承認が得られたら契約解除することはできません。
融資金額以外の条件は付いていないことに注意してください。
意図的に否決されるようなことをしてはいけません
住宅ローン特約による契約解除はノーペナルティのため、買主に有利な特約です。
本来、自分の都合で契約解除をする場合は手付解約となります。しかし、それでは手付金が返ってきません。
住宅ローンが否決されれば手付金が返ってくる、ということで意図的に否決されるようにすることを思い付く人もいます。
必要な書類をなかなか提出しない、年収を低く申告する、など、本来あるべき申込手続きとは異なることをしてしまうと住宅ローン特約による契約解除はできません。
その場合、当然住宅ローンも否決されていますので、結局手付解約として手付金は戻ってきません。
その他、契約当事者の事情に合わせて取り決める契約解除条項について
売主・買主が合意をすれば契約書の特約として契約解除条項を盛り込むことができます。
どのような場合に契約解除ができるのか、契約解除の際にペナルティが発生するのか、の2点を取り決めることになります。
本稿の最後として、よく使われる契約解除条項をいくつかご紹介します。
買い替え特約
あなたが住み替えを検討してるとして、今の家の売買契約を締結して売ることにしました。
決済・引渡しまで3か月あります。その間に新居を見つけて住み替え先を確保したいと考えています。
ちょうどよい物件が見つかり、売買契約を締結することになりました。
手付金は自己資金で支払えますが、残代金は今の家を売ったお金で支払うつもりです。
もし売却ができなくなってしまうと残代金が支払えません。
例えば、売却の契約が手付解約、住宅ローンが否決されて契約解除になってしまうということです。
売却取りやめの事態に備えて、買い替え先の購入契約に特約を盛り込んでおけば安心です。
つまり、売却契約が解除されてしまった場合、買主は購入契約を解除できる、ということです。
売却契約がノーペナルティで契約解除となれば、購入契約もノーペナルティで契約解除できるとすることが一般的です。
空渡し特約
売買契約の上では、建物を買主が使える状態で引き渡すことが決められています。
使える状態とは、他に住んでいる人(賃借人)がいない状態です。
稀に賃借人が住んだ状態で売りに出ている物件があります。
退去することが決まっているけど、しばらく先になるので賃借人が住んでいるうちから売っているわけです。
この状態で買手が現れて売買契約を締結すると、もし賃借人が約束通り退去しないと売主は契約違反になってしまいます。
空家として引き渡す、という約束違反です。
賃借人が退去しない事態に備えて、賃借人が退去しない場合は売主は契約解除できるという特約を盛り込めば安心です。
契約解除は当事者間の問題。事前にしっかり確認を。
ペナルティが発生する契約解除の場面では、当事者同士で主張が食い違うことが多く見受けられます。
また、契約書に決められた通り、速やかに手付金を返してもらったり、違約金を支払ってもらえるかは分かりません。
不動産会社の役割は仲介ですので、あなたに代わって売主から手付金を取り返してくれたり、違約金を取ってくれません。
何度督促しても応じてもらえなければ裁判手続きを行うことになります。
全ては自己責任ですので、疑問点があれば契約前にしっかり確認しましょう。