購入申込書の提出順で優先順位が決まるのか?~契約条件交渉の注意点~
中古マンションは1点モノであるため複数の買主に譲ることはできません。

新築マンションのように一定期間の間に申し込みを募り、抽選によって買主を決めることはしません。早い者勝ちなのです。

つまり、一番最初に手を挙げてくれた買主が優先されるということです。
ここでいう、手を挙げる、とは申し込みをすることです。

中古マンションの購入を申し込む際の申込書を、業界では買付(かいつけ)、買付証明書(かいつけしょうめいしょ)と呼んでいます。

買付の順番が早いものが優先される、ということです。

このルールは中古マンションの販売資料・契約書に掲載されているわけではなく、業界の慣習です。

不動産業者は中古マンションの仲介を行う時、この慣習を頭に入れながらお客様と対応しているのですが、この慣習を巡って争いが絶えません。

本来であれば買付の早い順なのに、不動産業者の利益も絡んでくるため不可解なことが起こるのが不動産取引なのです。

なぜ買付が自分より後で、値引き交渉もしている2番手が優先されるか?」ということは日常茶飯事といったら言い過ぎかもしれませんが…

そこで本稿では買付の優先順位とそれに絡んだ不動産業者の思惑を詳しく解説します。

買付の順位と売主との価格交渉の有無は優先順位に影響がある?

買付を出した早い人を優先する、ということでも、買付の内容は無関係ということではありません。

例えば、最初に買付を出したお客様は若干の価格交渉を希望しています。価格交渉自体は珍しいことでも、悪いことでもありません。

その後に2番手として買付を出したお客様は満額で買いたいという希望だった場合はどちらを優先すべきでしょうか?

当然、売主としては値引きしたくありませんので、2番手の方に売りたいと思うことでしょう。

これではせっかく1番早く買付を出したのに買えないことになってしまいますが、値引きを希望したのですから仕方ないです。

または、1番手の方は現金払いのため1週間後には売買代金全額を支払ってもらえるとして、2番手は住宅ローンを組むため支払いは2か月後、という条件であったら、どうでしょう?

売主に両方の条件を比較してもらい、どちらを優先するか決めてもらうことになるでしょう。

このように、買付の条件によっては早く提出した人を1番手にするか、2番手にするかの判断は異なるため、必ずしも早く出したから1番手で最優先となるわけではありません。

買付に正式ルールはありません。優先順位は不動産業者が決めている

そもそも買付(購入申込書)には法的な効力がありません

買いたいという意思を表明したに過ぎないため、契約前に気が変わって購入申込を取り下げてもペナルティは発生しません

売主から見ても、満額の買付が入ったからといって売らなければならないわけではありません。売却自体を取りやめてもいいのです。

買付の位置づけは、あくまで買いたいという意思表示であるため、書式や取り扱いの正式ルールはありません。

不動産取引の慣行により、購入希望者から買付をもらい、それを持って売主と交渉するというだけです。

これだけ聞くと、正式なルールもなく、書式も自由で取り下げてもペナルティが発生しないようでは取引が円滑に進みそうにありません。

そのため、不動産業者が取引の成立に向けて交通整理をしながら話を進めていくわけです。個々の取引においては不動産業者が主導して取引を進めるため、買付をどのように扱うのかはその不動産業者次第です。

買付が入った段階で販売活動を中断する(内見を断る)不動産業者もあります。
たとえそれが価格交渉のある買付であっても、まずは手を挙げてくれた買主のために売主と交渉してくれます。

交渉の結果が出るまで内見を断っているため、2番手から満額で買付が入ることはありませんので、1番に手を挙げてくれた人にはありがたい話です。

一方、売主からみれば1番手の価格交渉の結論を出さない限り、次の買い手を紹介してもらえないため不利に感じることでしょう。

とはいえ、買付が重なって入ったときに交通整理ができず、全部の買付がキャンセルになってしまうということもあり得ます。

このあたりの考え方が不動産業者によって異なりますので、買付に対する優先順位の決め方などを不動産業者に確認しておくと良いでしょう

不動産業者の期待収益によって優先順位が変わることがある

買付の優先順位、つまりあなたが購入したいと申し込みをしたときにどの程度優先順位を高く扱ってもらえるのかは、購入価格以外の条件によって決まることもあります

それは、仲介会社の収益になるかどうか、ということです。

そのためには不動産取引の仕組みを理解することが必要です。

片手仲介 物元(ブツモト)と客付け(キャクヅケ)の違い

不動産取引の形態は2パターンあります。
1つ目が片手(かたて)取引、共同仲介という言い方をするときもあります。

買主、売主にそれぞれ不動産業者が付いていて、売主側の不動産業者は売主から、買主側の不動産業者は買主から仲介手数料をもらうこと(片方)から、片手仲介といいます。

また、買主を担当する不動産業者を客付け、売主を担当する不動産業者を物元といいます。

なお、共同仲介の場合は取引全体の交通整理をするのは物元の仲介会社です。
客付会社は買付の書式の指定がないか、優先順位はどのように決まるのかを物元に確認します。


2つ目が両手(りょうて)取引です。
下図のような形になります。不動産業者は物元でもあり、客付けでもあります。
なぜ両手というか、分かりますよね?
買主、売主双方から仲介手数料が入るからです。

このように、不動産取引には2つの形態があることが分かりました。
あなたが不動産業者の経営者だとしたら、どちらの取引を優先しますか?

物元の不動産業者だけが両手取引の可能性がある

片手、両手、という言い方は、物元の不動産業者からみた言い方であることに気づきましたでしょうか?

上図のように、物元(赤い仲介)の仲介会社が自社で買主を見つければ両手、他の仲介会社が買主を連れてきたら片手です。

物元不動産業者からみれば、客付け不動産業者と契約を進めるのは、収益が半分になってしまうという見方もできます。

つまり、客付け不動産業者を通じた買付は、物元不動産業者の自社の買付よりも優先順位は下がるということです。

客付け不動産業者の購入条件と、物元不動産業者の購入条件が同一であれば、間違いなく物元不動産業者が優先されます

購入希望価格に差があっても、物元不動産業者は双方から仲介手数料をもらえることを考えれば、自社の買付を優先すると思ってください。
(価格差の分だけ売主の仲介手数料値引きしても両手取引によるメリットが上回ることもあります)

まとめ

・購入の意思表示をするため買付を提出する(単なる意思表示なので法的効力なし)
・買付の優先順位の決まりはない
・業界の慣習としては一番早く買付を出した人を優先とするが、不動産業者の考え方次第
・物元不動産業者と客付け不動産業者の買付では、物元不動産業者の買付が優先される


「知り合いの不動産業者がいるので、その人を窓口にして探しています。」

「最初に問い合わせた不動産業者の人が親切で、その後の物件を紹介してくれるのでその人に任せています」

ものすごく残念ですが、この探し方をされている方は客付け不動産業者を窓口にしていることが多く、肝心な時に不動産業者に力を発揮してもらえず買い逃すことになります。

物元不動産業者につながることが不動産取引を有利に進めるための絶対条件です。

でも、物元不動産業者かどうかってどうやって見分けるの?という質問を多くいただきます。

大丈夫です、見分ける方法があります。
気になった方は、ぜひ個別にご相談ください。

私は客付けでも物元でもなく、取引に関係のない第三者のファイナンシャルプランナーです。