転居

営業職として接客をするとき、お客様の次の行動を読んで懸念点を解消することで、この人は気が利くな~、と好印象を持ってもらえます。

「気が利くよね、といわれる営業になれよ」

そんなことは上司・先輩からいわれなくても分かっているわけで、具体的に何を伝えれば気が利くと思ってもらえるのかがとても難しいのです。

同じことを同じように二人のお客様に伝えても、一方のお客様には「そんなのわかってるよ」と言われてしまうこともあります。

そこが営業センス、営業力ということなのかもしれません。

さて、中古住宅を購入する際、住宅ローンの手続きや登記手続きを、現在の住所とするか購入後の住宅の住所で行うか決めなくてはなりません。

どちらでも進められるのですが、現在の住所で進めた場合、購入後新居に転居しますので、転居したら銀行の住所変更や登記名義人の住所変更登記が必要になり二度手間になります。最初から新居の住所で手続きをすれば変更の手間がありませんので、最初から新居の住所で手続きをする方が多いようです。

そして、住宅ローン・登記の手続きを新居の住所で行うということは、新居の住所の住民票が必要です。そもそも、実際に転居していないのに住民票の異動ができるの?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、手続き上は問題なくできます。

こういった手続きに慣れてくると、新住所の方が後々手間が少ないことを説明して、先に住民票を異動させて、新住所で進めることを提案できるようになります。

お客様からみても、確かに旧住所で手続きをするよりも手間も費用も負担が少ないのですから、気が利いた提案だといえるでしょう。

そして、お客様は役所の窓口で手続きをします。

役所の担当者から

「実際に転居されたのはいつですか?日にちを書いてください」と言わます。

お客様は正直に「まだ転居してませんが、住民票が必要だといわれたので手続きをしに来ました」と言ってしまいます。

その結果、住民票の異動は受け付けてもらえず、新住所の住民票は手に入りませんでした。実際に転居していないんだから当然か…

その日の夜にお客様から電話があります。

「実際に転居していないとダメといわれましたが、どうすればいいんでしょうか?」

それに対して営業担当は

「適当な日にちを書いて、転居したと言ってください。証明書類を求められたりすることはありませんので、転居したと言えば手続きできますよ」と伝えます。

非常識のように思いますが、不動産業界ではこういうやり方で新住所の住民票を取得してもらうのが常識となっています。

せっかく平日に時間を取って役所に手続きに行ったのに、また行かなきゃならないのか…それに、嘘をつかなきゃ異動できないなんて、最初からおしえてくれよ…

「気が利かない営業担当だよな」という印象をお客様に与えてしまいました。

この段階は取引の最終段階です。挽回のチャンスはほとんどありません。

最後の印象が「気が利かない担当者」ということで終わります。

そのお客様からリピートや紹介を期待することはできません。

一歩ではなく、二歩三歩と数歩先を読んで気を利かせてこそ、「またこの人に任せたい」と思ってもらえるのでしょう。

経験は積んできましたが、果たして今の自分は昔よりも気が利く人になれているのか自信はありません。