「老後資金の生活費が毎月5万円の赤字」「2,000万円ないと生活できない!」という言葉が先行している、金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書について、遅ればせながら私も全文読んでみました。

平均値を用いて不安を煽ってしまった、とか、年金だけでは生活できないことはみんな知っている、とか。この報告書を営業トークに使われるのでは、とか。様々な言われ方をしているのですが、私の専門である「不動産」という切り口で、読んでみた感想を書きたいと思います。

マイホームあり、ローン返済なし?

高齢夫婦無職世帯の実収入(209,198円)と実支出(263,718円)、差額5万円が毎月赤字となることは、ニュース・新聞で大きく取り上げられているため報告書を詳しく読んでいない方でもご存知だろう。年間で60万円、30年だと1,800万円の赤字となるため、それ相当の貯蓄がなければ生活できない事となります。

若い方であれば、「そうか!目標2,000万円貯蓄するぞ!」「夫婦合わせて2,000万だから、そんなに大変ではないよね」と思われる方もいるはず。

一方で、50代の方の中には、「まだ子供の学費もあるし、住宅ローンも残っている。退職金だってあてにできないのに2,000万なんて無理な話だよ。妻に働いてもらおうかな・・・」なんて方もいるかもしれません。

ところで、報告書に記載されている夫婦の実収入、実支出、貯蓄額(すべて平均値)はわかりますが、マイホームに住んでいるのでしょうか?借家なのでしょうか?住宅ローンの返済は終わっているのでしょうか?

家計調査の収支項目によると、

  • 住宅ローンの元金返済:「非実支出」
  • 住宅ローンの利息部分:「非消費支出」
  • 非消費支出:住宅ローンの利息以外に、税金、社会保険料など
  • 実支出の「住居」:家賃、地代、家の修繕費など

を指しています。これを参考に報告書の支出をみてみると、

住居13,658円です。平均値を用いていること、地域差があることを考えても、この住居費の金額からマイホーム住まいであると言っていいでしょう。

住宅ローンは残っているのかどうかというと、「非実支出」の記載がないため不明です。非消費支出が28,240円ありますが、税金、社会保険料が大部分を占めるものだと思われます。大きな借入金利息は無い、つまり住宅ローンは完済している、もしくは残高が少ないと言えます。

これらのことから、毎月5万円赤字(老後2,000万円不足問題)は、マイホーム所有・ローン残債なし、の家計であると思われます。

報告書では毎月5万円の赤字を、自分自身が保有する金融資産より補填することと説明しています。(ちなみに、高齢夫婦世帯では平均貯蓄額として2,500万あることも記載されています)

報告書全体を読んで受け取ったメッセージとして、私は以下のように理解してました。

1.老後は貯蓄を取り崩して生活する(当然、年金だけでは生活できません)

2.資産運用して取り崩すペースを緩やかにすることも必要です

3.老後資金の資産形成のためにも資産運用は早いうちに始めましょう

確かにどれもその通りですよね。そこにもう1つ付け加えたいポイントがあります。

住宅資産活用により収支改善

マイホームに一生住むことを前提にライフプランを考えれば、金融資産をたくさん貯めて、老後に取り崩すということしか選択肢がありません。金融資産がなくても、マイホームを活用すれば収支が改善できます。

先程の収支内訳から考えて、高齢世帯はマイホームに住んでいる世帯が多いはずです。預貯金で慣れない資産運用を続けるよりも、いまの生活スタイルを見直して住宅資産を活用する方が収支改善の効果が高く、効果も長続きします。固定費の削減につながるためです。

最近では様々なサービスが展開されており、民泊施設として活用することや、時間貸として利用料をもらうこともできます。単純に売る・貸す以外の選択肢が増えたことで、今までとは違った価値を持つ不動産も増えてきました。

私が報告書を読んだ感想は

高齢世帯はマイホーム所有者が圧倒的に多く、家計赤字脱出のための住宅資産活用ニーズは大きい。

ということです。